Yext社主催、検索の未来を考えるカンファレンス・ONWARD19レポート
2019年10月29日〜30日の2日間にかけて、Yext(イエクスト)社がニューヨークで毎年開催しているカンファレンス「ONWARD19」が今年も開催されました。
今年9月よりYextセールスパートナーとして、GoogleマイビジネスやFacebook、Yelpなど様々な有力媒体に掲載される店舗情報を一括管理できる「Yext」のサービスを提供しているGyro-nも本カンファレンスに参加してきました。
ITシーンで常に市場をリードするアメリカで、web上の「検索」において今起きようとしている最新のムーブメントをレポートします。
目次
ONWARD19とは?
ONWARD(オンワード)とは、検索のためのプラットフォームを提供しているYext(イエクスト)社が、毎年本社のあるアメリカ・ニューヨークで開催している大規模なマーケティングカンファレンスです。
2019年度のONWARD19は、10月29日30日の2日間に渡ってタイムズ・スクエアにあるマリオット・マーキスで開催されました。今年の参加者数はまだ明らかになっていませんが、ONWARD18では講演者・パートナー・一般参加者合わせて1600人以上が参加するという大規模イベントです。
「The Future of Search(検索の未来)」と題し、Yext社が提唱するこれからの検索のあり方とは?というテーマで5つの基調講演、39の分科会セッション、交流会、各国セールスパートナー向けのパートナーサミットなど、2日間でトータル30時間に渡って開催されました。
リセーラーパートナーとして、日本国内でロケーションビジネスを展開しているSMB(中小企業)向けにYextのサービスを提供しているGyro-nからも、本イベントに全日程参加しました。
キーノート:Yextが提示した検索の未来
1日目にYextのCEO/創業者であるハワード・ラーマン氏によるオープニングキーノートを皮切りに、元NBAプレイヤーのマジック・ジョンソンによるクロージングキーノート、2日目のオープニングキーノートはテレビ司会者・コメディアン・俳優として全米で広く知られるセス・マイヤーズ、ランチキーノートは今年のサッカー女子ワールドカップ連覇を果たしたアメリカ代表監督ジル・エリス、クロージングキーノートにはマーケティング関連で多くのベストセラーを著した作家セス・ゴーディン、という超豪華メンバーが登壇し、「検索の未来」に関連するパフォーマンスを行った。
まず、オープニングキーノートのラーマンCEOは、テレビのプライムニュースのキャスターに扮して従来の検索の歴史を紹介。さらには一般回答者に制限時間内でネット検索をし、正解を答えられるか?というクイズショー形式に移行します。回答者は制限時間内に正しい検索ワードが思いつかずクイズは失敗。そこで、「インターネットに詳しい人」「未来の検索システム」のどちらかをアシスタントに使えるボーナスチャンスが発生。回答者は「詳しい人」を選択しますが、この人は主観的な意見しか持っておらずチャレンジはやはり失敗。最後に未来の検索システムを使うと回答者が発したごく自然な質問文を正確に読み解いて正しい答えが即座に出ます。
一連のショーで示されたのは、検索ワードの選択に技術が必要な従来のインターネット検索でもなく、恣意的な判断が介在してしまう「人」の知識でもなく、検索者の自然言語による質問から正確にその意図を読み取り、正しく、最新の状態に管理されたデータベースから解答を出す「検索の未来」でした。
この「検索の未来」を実現する新たなサービス「Yext Answers」が今回のONWARD19で発表された目玉商品でした。英語版に関してはこの発表の瞬間にリリースされ、各言語対応は今後順次開発されていくということで、日本語版についても1年程度の開発期間を経てリリースされることが期待できます。
その他各界の著名人を集めた各キーノートは概ねエンターテイメントを重視したものでしたが、マジック・ジョンソン、セス・ゴーディン、ジル・エリス各氏はインタビュアーやオーディエンスの疑問に答える形式を取っていたので、まさに「Answers」でした。
セス・マイヤーズのセッションに関しては、「ウチの嫁」に関する鉄板ネタ(アメリカ在住でない私は知りませんでしたが)が大ウケで、イベント中最大の盛り上がりを見せました。
パートナーサミットで開示された最新情報
1日目の午前中は、オープニングに先立って、各国のパートナーだけを集めたパートナーサミットが開かれました。
ここでもパートナー向けに6つのセッションが開かれ、本編と共通するこれからの検索の世界、Amazon Alexaなどの音声メディアの普及、デジタルネイティブ世代の拡大、AIの技術発展によってもたらされる自然言語による検索に対応し、ありとあらゆる疑問に瞬時に対応することができる検索環境や、その仕組み、新しい検索でもたらされるカスタマージャーニーの変化、ローカルビジネス環境の変化などが紹介されましたが、いくつかYextサービスの最新アップデート情報もパートナーに開示されました。
- 今後対応予定のパブリッシャー
Yextの本国アメリカにおいても中国インバウンド市場は重要性の高いものと認識されているようです。グレートファイアーウォールの存在により中国では独自のサイト・サービスが展開されている事情もあり、Yextの上海拠点では中国系のパブリッシャーとのアライアンスを専門に行なっているようです。
日本で提供されているYext対応パブリッシャーとしても「大众点评(大衆点評)」「马蜂窝(マーフェンウォー)」が連携される見込み。従来の「Baidu Maps」「Fliggy」を含めると、近いうちに中国インバウンド観光客が利用するほとんどの情報サイト・アプリにYextから情報配信ができる状況になりそうです。 - 最新アップデート
次回のアップデートで変わることが共有されました。 - 現在YextからGoogleマイビジネス、Facebookアカウントと接続するとYextに登録済みの情報で上書きされます。このため、GoogleマイビジネスやFacebookを個別で管理していた店舗を、Yextでの情報入力が不完全な状態で接続をしてしまうと、上書きされてしまいすでに登録されていた情報が消えてしまうことがありましたが、Googleマイビジネス/Facebookにすでに情報がある場合は既存情報を優先するか、Yext上の管理情報を優先させるかを選択できるようになります。
- Knowledge Tags(ナレッジ・タグ)が、無店舗・地域派遣型のビジネスにも対応します。また、レビュー情報もKnowledge Tagsに載せられるようになります。これらの構造化された情報が自社ウェブサイトに掲載されることにより、よりSEO上の評価を獲得することが期待されます。
- 管理画面のモバイル対応が進みます。レビューの回答もスマホの画面からできるようになるため、ここが障壁となってYextの導入を見送っていた店舗運営者も導入を再検討されるといいかもしれません。
- 「パブリッシャーからの提案」が、複数のパブリッシャーからの提案をまとめて見られるように改修されます。
* パブリッシャー:情報配信対象となる情報サイト、アプリ、SNSなどの媒体をYextでは総称してこう呼んでいます。
分科会セッション情報
各キーノートの間に多数開催された分科会セッションのうち、特に気になった内容について紹介します。
Knowledge Graph構築の考え方
Yextで一括管理している店舗情報は「Knowledge Graph(ナレッジグラフ)」というところに格納されていますが、そもそもナレッジグラフとは何を表すものでしょうか?
ナレッジグラフとは、「店舗」「製品」「求人」など、あるものに対する知識(情報)のかたまりといったイメージです。Google検索でも人名など調べると、その人に関連する情報がまとまった「ナレッジグラフ」が右側に表示されます。このナレッジグラフに載っている情報が多ければ多いほど、あらゆる質問に対して的確に回答できるようになります。
Gyro-n × Yextサービスでは「店舗情報」が一つの情報セットとして管理され、それが約25の媒体に一括配信されるようになっています。ここに店舗に関するあらゆる情報を載せれば載せるほど、様々な媒体や自店舗サイトにやってくるあらゆるセグメントのユーザーに対して、最適な情報が提供されることになります。
今回発表されたYext Answersでは、店舗情報に限らず、上図のように複合的に構築されたナレッジグラフを用意することで、様々な媒体から寄せられるユーザーのあらゆる質問に対して正確な答えを提供することができるようになります。
音声検索・自然言語対応のこれから
「What Does Your Brand Sound Like? Using Alexa to Reach Customers in the Moment(あなたのブランドはどう見える?アレクサで顧客に瞬時にリーチ)」
Amazon Alexaのチーフエヴァンジェリスト:デイヴィッド・イスビツキ氏によるセッションがありました。
Alexaをはじめとする音声認識デバイスの技術が今後発展すること、従来のキーワードの羅列による検索ではなく、自然言語による検索や、音声入力が自然に行えるデジタルネイティブ世代の増加に伴い、マーケティングにおいても今後これらのユーザーへの対応を進めていく必要があるとのこと。
音声認識デバイスは複雑な言語解析を行なっていると思われがちだが、デバイスが行なっていることは音声を聞き取ってHTMLデータ化をするところであり、データベースで検索のやり取りをする部分は従来と同じくHTMLベースでデータが取り扱われているため、音声認識デバイスだからといって、検索への答えを準備する側としてはテキスト検索とやることは変わらないということです。
音声認識はデバイスに、自然言語での検索意図の分析はAIに任せ、従来と同様にあらゆる疑問に答え得るだけの、検索意図を意識したコンテンツを用意することが重要との認識でした。
Yext Answersデモ
ONWARD19の目玉だった「Yext Answers」のデモンストレーションも行われました。
現状英語のみの対応ではあるものの、「Best menswear store in London open now that sells dress-shirts(ロンドンで今やってるシャツ売ってる紳士服屋で一番いいところは?)」のような、自然な会話に出てくるような聞き方でも、正確に正しいデータを返すことができていました。
また、Yext Answersを導入した場合、検索されたフレーズや、そのキーワードがYext管理画面で確認でき、その答えをQ&Aデータベースに用意することで次の瞬間から同じ意図を持つ検索に対しては返答ができるようになります。
消費者の検索がダイレクトに、リアルタイムに確認できるようになることで、インテント(意図)を意識したコンテンツマーケティング(アメリカでは「インテント・マーケティング」という用語を使います)を進めやすくなり、これによりSEOなどでも好影響を受けることになりそうです。
各国語対応は今後順次開発され、日本語対応は1年後あたりのリリースになりそうです。
アメリカにおける中国インバウンド事情
アメリカにおいても日本と同様に中国インバウンド市場は非常に重要なものと認識され、ONWARD19でもYextの中国市場開拓担当ディレクターVivien Cheung氏とadidasのトラフィック成長担当ディレクターAmary Kelie氏による「East Meets West: Reaching Chinese Consumers Where They Search(東洋と西洋との出会い:中国の消費者の検索行動にリーチする方法)」と題したセッションが開かれました。
まず紹介されたのは、世界的に広く使われている様々なサービスが、グレートファイアウォールの存在により中国国内では利用できず、それに相当する中国国内に特化したサイト・サービスが広く利用されている。
そしてそれらのサービスは、概ねアリババ、テンセント、百度(バイドゥー)の3大グループのエコシステムにまとめられていますよ、というところ。
また、アメリカの消費者と中国インバウンドの消費者とでは、検索をする目的・検索意図・ニーズは異なるので、彼らの意図をよく理解してコンテンツや商品・サービスを用意することが重要とのお話がありました。
この辺りは日本で中国インバウンド向けのビジネスを展開されている方にとっては常識の範囲でしょう。アメリカでも中国人インバウンド市場への関心は高くなってきているようですが、中国インバウンドの最前線といってもいい日本の方が、この関連のリテラシーは全体的にアメリカより高いと感じました。
まとめ
「検索の未来」に関してのYext社の考え方がよくわかるイベントでした。
多岐にわたる検索手段、様々なセグメントを持ったユーザーの検索意図(インテント)を読み取ってコンテンツ・サービスを用意するという、インテント・マーケティング、インテントを意識したコンテンツマーケティング、というのは最近日本でもよく聞くようになってきている考え方ですが、今回のイベントでもあらゆる登壇者がこの「インテント」という言葉を多用していました。
ユーザーの検索意図はコンテンツ制作やサービス提供だけでなく、SEOでの評価をあげることや、コンバージョンの向上を狙った施策でも活用できる考え方です。
Gyro-nでも今後最新の情報の提供や、インテントを探るための新機能開発などを進めてまいります。